安全登山の基本4
*上毛新聞「視点オピニオン」に2024年12月から’25年10月まで、7回にわたり掲載されたコラムを上毛新聞社の許諾により掲載します。
執筆:根井康雄(日本山岳会群馬支部長)
シニアの登山 余裕から生まれる安全
前橋市内の公民館で活動するトレッキングサークルの人たちと年に数回、山に登っています。山へ行かない月は座学で山の勉強をします。
50代から70代後半までのシニア世代が中心ですが、グループの合言葉は「1.5倍の時間をかけて1.5倍楽しむ」です。1日の行動時間は長くても5時間程度に抑え、あまり早起きしなくてもいいように出発時間も考え、下山は午後3時ごろまでには済ませるようにしています。
さらに標準的には日帰りのコースでも、前泊や山中泊を考えます。そうして県内の山や北アルプスなど、日帰りから1、2泊程度でレベルに合わせた山行を無理なく楽しんでいます。
体力に自信があっても、シニア登山者には加齢による筋力やバランス、持久力の衰え、膝や股関節の変形がほぼ確実にやってきます。また、持病を抱える年齢でもあります。私自身、両股関節の変形が進み、人工関節に置き換え、医師の助言の下、無理のない範囲で登山を続けています。登下降のうち、特に下りのバランス保持には十分気を配っています。
遭難の原因は道迷いとともに転倒、転滑落が多くを占めますが、これらは筋力やバランスの衰え、疲労に起因するケースが多いと考えます。実際、滑りやすい岩の露出した下山路でバランスを崩して転倒するという事故が多く発生しています。ですから、このサークルでは、特に下りには余力を残し、一歩一歩慎重に下山できるよう、計画段階から安全なコースを選びます。登山当日も十分な時間を取り、慎重な足取りで下れるようリードします。
体力・運動能力のある人ほど、自分を過信し、人より早い時間で歩くことに自信を持ちがちです。競技のトレイルランニングではないのですから、息を切らせて、時に岩につまずきそうになりながら登り下りするのは、安全な登山とは真逆のものと言えるでしょう。
決められた時間以外は休まずに歩くのではなく、きれいな景色が開けた安全な場所があれば、見とれて、少し早めに腰を下ろすことがあって良いのです。足元の花にカメラを向けながら、息を整えることも大切な時間です。
前泊や山中泊は時間的メリットだけでなく、朝夕の自然の移ろいを五感で感じるという意味でも貴重な時間の源です。尾瀬ケ原の朝もやとたそがれは、日帰りでは絶対に味わえない宝物です。
このサークルでは座学にも力を入れています。実地の登山以上の回数を座学に充て、地図の見方や気象、装備など重要な課題は何度も反復します。山行前の登山計画の共有にも力を入れています。登山を長く楽しむには、ゆったりとした確実な一歩一歩とともに、知識を蓄え、経験を整理するために登山の基本を学ぶことが大切だからです。

